第2話 ザ☆バトル

  その日、シャノンは、お父さんのお手伝いで森の中で薬草を探していた。
 「頼まれた赤色ハーブは、あと3株、緑色ハーブは2株と・・・」
 シャノンは、しゃがみながら左右を見ながらハーブを探していると突然の直感が彼女を襲った! 右斜め前!その方向に目をやると、何か引き寄せられるような感覚が彼女を支配していた。
  シャノンは、その直感に導かれるように進むと、なぜか知らないが期待と興奮が胸を高鳴らせる。

 そして、その直感が彼女を連れてきた場所には・・・ なんと!ユニコーンのコスチュームをまとい、小さな顔には純真な瞳を持つ可愛い白猫が立っているのではないか!
 その手には、クリームがふんわりと乗ったソフトクリームを握っている。
 にゃんこは、しばらくの間、遠くの風景を見つめているようだったが、やがてシャノンの存在に気づき、彼女の方に振り向く。

 その愛らしさに心を奪われ、シャノンはついついその小さな体に飛びつく!

 しかし、驚いた「にゃんこ」は、そのふわふわとした肉球でシャノンをやさしく押しのけて、少し後ろに下がる。
 その様子に、シャノンは、顔をむすっとして「ね~!逃げないで~よん!」と再び抱き着こうとする。

 すると、にゃんこは、ソフトクリームをシャノンの方に向けて、まるで「これで引き下がって!」と言わんばかりに擦り付けようとする。
 シャノンは、笑みを浮かべながら、アイスクリームをどけつつ、優しく「物で人を指しちゃだめ!めっだよ!」と諭した。
 そして、再びにゃんこに飛びつき、自分の頬をそのふわふわの頬にこすりつけ、「きゃわいいいいい」と言いながらぐりぐりする。

 にゃんこは驚いたような表情を浮かべると、大きな瞳で彼女を見つめる。
 シャノンは、その反応にさらにメロメロになり、にゃんこの柔らかい額に鼻を寄せて、「ぶちゅ~~~~スゥーーーーーーーーハーーーー」と猫吸いを始め、嬉しそうに「いい匂い~~キャラメルの匂いがする♡」と言いながら・・・・。

見たイメージ:シャノンが見たにゃんこ(ライディス)

 そう、その「にゃんこ」とは、アインフェルトだ!
 しかし、シャノンの目から見ると、何故かアインフェルトは愛くるしいユニコーンのコスプレをしている猫の姿として映っている。

 一方、シャノン以外の人間や獣人から見ると、かわいい純真無垢な少女が、恐ろしい殺気を持つアインフェルトに抱き着き、楽しそうにぐりぐりしているという、驚愕な光景である!!
 さらに驚くべきことに、アインフェルトは、少女にされるがままで、何もできずにいる。この異様な状況は、その場にいる全ての存在たちがショックを受けている。

 アインフェルトは、途方に暮れていた。抵抗を試みるも、何も出来ない・・・。
 力が入らないわけではなく、魔力が吸収されているわけでもない。
 少女は、まるで無限に広がる大海原のように圧倒的で、逆らえないと感じだ。

 しかも、その驚異的な力には、一切の敵意や殺意が感じられない。
 事実、アインフェルトには何の怪我もなく、痛みすらなかった。
 少女の不可解な行動と圧倒的な力にアインフェルトには状況を理解できず、少しの恐怖と何故かウザさを感じるのだ。

 しばらく、シャノンに抱き着かれたままぐりぐりされるアインフェルトとショック受けている周囲の人たち。
 やがて、その拘束が解かれると、シャノンはやや申し訳なさそうに「ごめん、ちょっとしつこかったね」と微笑みながら謝る。

 アインフェルトは、武者震いしながら、自身の魔力を最大限に解放することを決意する!
 彼は、自身の激しい魔力の奔流により包まれる。
 
 そして、シャノンに対し、無数の技を繰り出す!!極剛の一撃、極柔の流れるような動き、虚の幻影、実の破壊、一撃一撃が凄まじい威力を持ち、絶技とも称されるほどだ!手練れでさえどの攻撃くらっても、確実に命を落とすであろう。

 だが、シャノンはその攻撃を前にしても、輝いている笑顔で「連続ハイタッチ~(イメージ動画)」と楽しそうに言いながら、その手は、アインフェルトの攻撃を一つ一つキャッチし、すべてを無効化している!
 アインフェルトの周囲は、攻撃の風圧で崩壊しているが、シャノンの周囲だけは、まるで何もなかったかのように平穏である。

 アインフェルトは、深呼吸をして、自分を落ち着かせる。次の攻撃に向けて集中し、この一撃に賭ける覚悟を決める!

 彼は、頭上の角に、魔力を集中し始める。その魔力量は圧倒的で、まるでマグマのように、周囲の空気まで熱くさせるほどで、日光さえも超える強烈な輝きを放つ。
 さらに、角から放たれる魔力の稲妻は、接触するものを灰に変えてしまう破壊力を持っている。まさに、「破壊」以外なにものでもない!

 その後、アインフェルトは、脚にも魔力を纏わせ、地面を蹴り、シャノンへと猛然と突進する!!
 周囲の景色がぼやけて見えるほど速く!彗星のようにシャノンに迫る!

 アインフェルトの圧倒的な突進は、誰もが恐怖を感じる!!!
 が・・・シャノンの目にはまるで愛らしいにゃんこが、自分に向かって頭を軽く突き出してきたようにしか見えないのだ。

 にゃんこが接近するにつれ、シャノンは満面の笑みで、「えへへ、頭をごっつんしにきたのね、もぉ~、本当に甘えん坊だね~♡」と嬉しそうに笑い、なんと!シャノンは、にゃんこの突進を見越して、自分の鼻がにゃんこの頭に触れるように鼻を前に出して待機する。

 「これが究極の猫吸い技!”飛んで火に入る夏の虫式”猫吸いだ!!!!」と自分で命名し、自分でウケているシャノンに対して、周囲の者達は、ますます理解不能!!

 にゃんこの頭がシャノンの鼻に接触すると、シャノンはそのまま頭を上げて、にゃんこの額に鼻を押し付けて「スゥーーーー」と猫吸い、ぐりぐりし始める。

 そう、アインフェルトの渾身の一撃は、虚しくも、シャノンの”にゃんこ・ラブ”の前では何の効果もないのである。

 どれほどの時間が過ぎたのだろうか、アインフェルトにはもはや分からない。

 感覚は乱れ、思考が混濁し、状況を正確に把握することが困難となっている。
 全ての攻撃が簡単に防がれ、その絶望感が胸を締め付ける。
 さらに、シャノンによる完全な拘束(抱き着き)の中で、無力感に打ちのめされた。

 さらに、シャノンのぐりぐりなど自分に対する愛着(?)の行動は、アインフェルトにとっては絶対的に理解できないものであるし、なんかウザい・・・。
 そして、アインフェルトに向けている周囲の驚きや戸惑い、中には哀れむような視線により、ライディスのプライドは少しずつ砕け散る。

 ただ、不思議と、シャノンの心からの喜びと愛情溢れる表情、自分への愛着に、アインフェルトの心を揺さぶのだ。

 暫くして、シャノンは、アインフェルトに抱き着くのをやめて、すごく満足そうに「最っ高に幸せ!!あ、ハーブを探さなきゃ、忘れてた。ユニにゃん、バイ~バ~イ♡」と手を振り、足早と森の奥へ戻る。

 放心状態のアインフェルト。

 彼の心の中は、さまざまな感情と思考が渦巻いており、一気に押し寄せる感じだ。
 その場にいた人々も、その異様な状況に固まっている。

 アインフェルトは、顔を上げ人間共に目を向ける。
 少女の居ない今、人間たちを容易く皆が殺しにできる。

 しかし、アインフェルトは、人間の少女に対する圧倒的な敗北感を感じつつも、命を奪われなかった、傷さえつけられなかった事実により、そのような不義な行動を取ることができない。

 少しの間をおいて、アインフェルトはゆっくりと立ち上がり、彼の視線はどことなく遠く、疲労感が滲んでいた。
 「帰・・・る」と小さく無力につぶやきながら、その場を後にする。
 他の獣人族も、無言で彼の後ろをついて行く。

 残された兵士達は、帰って行く獣人達の背中を見ながら、「とりあえず生きている。助かった」と喜ぶ。
 その中で、女性兵士の目は、シャノンが去っていった方向に目を向ける。

コメント

タイトルとURLをコピーしました